大学時代にちょっとしたきっかけから、女装男子と付き合うことになったエピソードを紹介します。
当時の私は学業もそこそこに、アルバイトばかりに精を出していました。
その時の勤め先にいたのが瀬川君。この瀬川君は小柄で細身であったことに加え、肌が白く、髪も女性のように細かったことから、バイト先でも「おまえ、本当は女だろ」といった感じで、よくからかわれていました。
もちろん、バイトのメンバーはみんな仲が良く、瀬川君もからかわれるたびに、楽しそうに一言、二言、何事かを言い返します。この瀬川君と私は同い年ということもあって、特に仲が良く、仕事が終わってからもよく二人で遊びに出かけていました。
しかしある日のこと、いつものように瀬川君と仕事帰りに遊んでいると、「明日、○○公園で会って欲しい」と言われたのです。詳しい要件は聞きませんでしたが、特に用事もなかったため、軽い気持ちでOKしました。
ちなみにもし、男の娘と付き合いたいなら、友情結婚を応援するカラーズで。
目次
公園での待ち合わせ。現れたのは……
その翌日、約束の時間になっても瀬川君が姿を現しません。そこでケータイで瀬川君に連絡を取ろうとしたところ、見知らぬ女性から声をかけられました。
声をかける際に私の名前を呼んでいたことから、知り合いであることは間違いありません。でも、顔を見ても全く誰だか思い出せなかったのです。
誰だか分からずに戸惑っていると「瀬川だよ」と言われ、初めてその女性が瀬川君だと気づき衝撃を受けました。
瀬川君はコスプレ好きで、コミケなどにもよく出かけていることは知っていましたが、まさか女装までするとは夢にも思っていなかったのです。
でも、本当に衝撃を受けたのは瀬川君が女装してきたことではありません。その女装のレベルがあまりにも高く、どう見ても本当の女性にしか見えなかったことです。
そして、何より女装した瀬川君は、私が人生で出会ったどの女性よりも美しかったことに驚きました。でも、この驚きにもすぐになれます。
なぜなら、もともと瀬川君がコスプレ好きであることは知っていましたし、普段から「女だろ」とからかっていたので、瀬川君が意趣返しの冗談で女装してきたのだと思ったからです。
そこで詳しく話を聞いてみると、私の考えはあたらずも遠からずといったところでした。
男性が好きなわけではない。けれど……
瀬川君の女装は趣味で、男性を好きなわけではないこと、コミケの時以外は女装しないとのことでした。
「そりゃそうだよね」と私は笑っていたのですが、その直後、瀬川君が「そのうえで俺と付き合ってほしい」と発したことで私は凍り付きます。
私は女性が好きで、男性には興味がありません。それに、瀬川君も男性には興味がないとついさっき言ったはずです。
そのため、最初のうちは瀬川君の言葉の意味がよく分からず、戸惑ってしまいました。
戸惑う私を無視して、瀬川君は付き合って欲しいと言った理由を語り始めました。
なんでも、瀬川君は女性の視点から恋愛することに興味を持っており、かねてから女性としてデートしたいと思っていたそうです。
その結果として、瀬川君の選んだ相手が私だったとのこと。
理由を聞いて少しほっとしたのと同時に、瀬川君の考え方があまりにも面白かったので、期間限定付きの条件で、私は瀬川君と付き合うことにしました。
初デートは定番の水族館
その後、二人で話し合った結果、初デートの場所は水族館に決定。水族館にした理由は、単純に初デートの場所としてベターなこと、そして照明の暗い水族館なら瀬川君の女装が人に見破られる可能性も低くなると考えたからです。
デート当日、待ち合わせ場所の駅に現れた瀬川君は、やっぱり道行く人の誰よりも美人でした。駅のホームでも、すれ違う人の多くが瀬川君をチラチラと見ており、その内、女性の何人かが「え、すごく綺麗」と囁くのが聞こえるほどです。
その瞬間、自分が彼氏(?)であることがとても誇らしいように感じられて、なんとも不思議な気分になったことを覚えています。
デートが始まってからしばらくはお互いぎこちなかったのですが、瀬川君が女性としての振る舞いに徹していたこともあり、時間が経つに従ってホンモノの女性と普通にデートしている感覚になってきました。
女装男子とのデートでは、トイレが大変!
けれど、女装男子とのデートは思った以上に大変な部分もあります。その一つがトイレです。
見た目は完璧に女性とはいえ、中身はやはり男性。女性トイレを使用することはできません。
しかし、見た目が女性であるため、男性トイレに入ることもできないのです。
結局、男性トイレが無人になる瞬間を見計らって個室でトイレを済まし、私が周囲に人がいないことをケータイで連絡してから、トイレから出るといった方法をとっていました。
思い出すと吹き出しそうになってしまいますが、今となってはこのトイレの苦労も楽しい思い出です。水族館以外にも美術館、遊園地、ショッピングなど様々なデートスポットへ出かけました。
そうして何度かデートを重ねるうち、ついに約束の期限が訪れます。付き合っていた期間はおよそ2ヶ月。その間、様々な場所へ出かけたので、最後は何とも言えないせつない気持ちになりました。
やがて、思い出話しへと変わりゆく
瀬川君はその後、女装をしなくなったため、もう「彼女」に会うことはありません。
でも、今でもケータイには「彼女」の写真が残っています。その写真を周囲の人に見せて「昔の彼女」と言えば、みんな「すごい美人」と驚いてくれます。
でも、その後に「女装男子だけどね」と言って、付き合うことになったいきさつを話すのが私の持ちネタです。